銀行と話せる数字の作り方 第4回

設備投資をしてよい会社・してはいけない会社 投資前に確認すべき資金繰りと返済力

設備投資は、会社を成長させる重要な手段です。 しかし、「売上が増えそう」「融資を受けられる」という理由だけで実行すると、 投資後の返済や固定費が資金繰りを圧迫することがあります。

設備投資で確認すべきなのは、 投資できるかではなく、投資後も資金が残るかです。

新しい機械を導入すれば、生産量が増える、作業時間が短くなる、 外注費を削減できるといった効果が期待できます。

一方で、設備代金だけでなく、借入返済、減価償却費、保守費、 電気代、人件費、原材料費など、新たな負担が発生することもあります。

また、設備を導入しても、受注がすぐに増えるとは限りません。 売上が計画より遅れれば、返済だけが先に始まり、 現預金が減少する可能性があります。

本記事では、設備投資をしてよい会社と慎重に判断すべき会社の違い、 投資前に確認すべき数字、銀行に説明すべき内容を整理します。

01

設備投資は目的ではなく手段

設備投資で最初に確認すべきことは、 「どの設備を購入するか」ではありません。

その設備によって、どの経営課題を解決し、 どのような収益や資金効果を生み出すのかを明確にすることが先です。

課題

現在の問題

生産能力不足、設備老朽化、外注費増加、人手不足など

投資

設備導入

機械、システム、車両、店舗設備などを導入

効果

経営成果

追加粗利、コスト削減、短納期化、生産性向上など

重要な考え方

「新しい機械を入れたい」ではなく、 設備によって、どの数字をどれだけ改善するのか まで明確にします。

設備を購入すること自体が目的になると、 導入後の受注計画や利益計画が曖昧になり、 投資効果を検証できなくなります。

02

売上ではなく追加粗利を見る

設備投資の説明では、 「導入後に売上がいくら増えるか」が強調されがちです。

しかし、返済や固定費を賄うために重要なのは、 売上高ではなく、原材料費や外注費などを差し引いた後の 追加粗利です。

表面上の効果

追加売上

新設備によって新たに獲得する売上高

販売数量 × 販売単価

増加する費用

追加変動費

材料費、仕入、外注費、販売手数料など

売上に比例して増える費用

投資効果の原資

追加粗利

固定費と借入返済を賄うために残る利益

追加売上 − 追加変動費

売上が大きくても、原価率が高ければ、 設備投資や借入返済に使える資金は多くありません。

売上計画を作る際は、数量、単価、原価率、粗利額まで分解し、 投資によって本当に利益が増えるかを確認します。

03

投資後に増える固定費を確認する

設備投資では、設備代金だけでなく、 導入後に毎年発生する費用も確認する必要があります。

減価償却費

設備の取得価額を耐用年数に応じて費用化

人件費

操作担当者、営業担当者、管理担当者などの追加

保守・修繕費

定期点検、保守契約、消耗部品、故障対応など

ランニング費用

電気代、システム利用料、保険料、賃借料など

固定費が増えると、会社全体の損益分岐点も上がります。 投資前と同じ売上では、利益が減る可能性があります。

投資前

低い損益分岐点

固定費が比較的少なく、売上減少への耐性がある

投資後

上昇する損益分岐点

減価償却費や人件費の増加により、必要売上が増える

設備投資後は、 最低いくら売れば赤字にならないかを 改めて計算する必要があります。

04

借入返済後も資金が残るか

設備資金を借入で調達する場合、 融資を受けられることと、無理なく返済できることは別です。

投資後の利益と減価償却費から得られる資金が、 年間の元金返済額を上回っているか確認します。

投資後の年間資金余力

税引後利益 減価償却費 年間元金返済額

= 返済後に会社へ残るキャッシュ

計画上は利益が出ていても、返済額が大きすぎれば、 納税、賞与、次の設備更新などに使える現金が残りません。

返済後も資金が残る

投資後のキャッシュで返済を賄い、 一定の現預金を維持できる

返済で資金が減る

利益は出ても、返済後の資金余力がほとんど残らない

銀行から借りられる金額ではなく、 自社が無理なく返せる金額から投資規模を決めます。

05

売上発生までの時間差に注意する

設備を導入しても、すぐに売上が発生するとは限りません。

発注、納品、設置、試運転、従業員教育、営業活動、 受注、生産、納品、売掛金回収という流れには時間がかかります。

導入前

手付金、工事費、自己資金の支出

導入時

設備代金、運搬費、設置費、初期費用

稼働準備

試運転、研修、販促、原材料の仕入れ

売上発生

受注、生産、納品後に売上を計上

入金

売掛金の回収後に現金が増える

売上が立つ前から、借入返済、給与、保守費、原材料費などは発生します。 この期間を乗り切るための運転資金が不足すると、 事業は順調でも資金繰りが苦しくなります。

投資前に確認する資金

  • 設備本体の購入資金
  • 運搬・設置・工事・付帯設備の費用
  • 稼働開始までの人件費・研修費
  • 原材料や在庫の先行仕入資金
  • 売上代金が入金されるまでの運転資金
  • 想定外の遅れに備える予備資金

06

投資回収期間を確認する

投資回収期間とは、設備投資に使った資金を、 投資によって増加する利益で何年かけて回収するかを確認する考え方です。

投資回収期間

投資総額 ÷ 年間の利益増加額 = 回収期間

例えば、設備本体だけでなく、工事費やシステム費用を含めた 投資総額が3,000万円で、年間の利益増加額が600万円であれば、 単純計算では回収期間は5年です。

投資総額

3,000万円

設備・工事・付帯費用を含む

年間利益増加額

600万円

投資によって新たに増える利益

回収期間

5年

計画どおり進んだ場合の目安

回収期間は、売上高ではなく、 投資によって増える利益やキャッシュをもとに確認します。

07

売上未達時のワーストケース

設備投資の計画は、計画どおり売れた場合だけでなく、 売上が遅れた場合や、利益率が低下した場合も確認します。

基本シナリオ

計画どおり

売上、粗利、稼働率が計画どおりに進む

慎重シナリオ

売上80%

受注の立ち上がりが遅れ、計画売上を下回る

ワーストケース

売上50%・コスト増

売上未達と原価上昇が同時に発生する

ワーストケースでも、給与、税金、借入返済を続けられるか。 追加借入が必要になる場合、いつまでに銀行へ相談するか。 事前に対応策を決めておくことが重要です。

事前に決めておく対策

  • 設備の導入時期や投資規模を段階的にする
  • 自己資金を使いすぎず、一定の現預金を残す
  • 売上が遅れた場合の追加運転資金を確保する
  • 外注や既存設備を使う代替策を用意する
  • 固定費の増加時期を売上の立ち上がりに合わせる
  • 銀行へ相談する時期と必要資料を決めておく

08

投資してよい会社・慎重に判断すべき会社

投資を進めやすい会社

投資後も資金余力が残る

  • 設備によって解決する課題が明確
  • 追加売上と追加粗利の根拠がある
  • 投資後の固定費を計算している
  • 年間返済額を返済原資で賄える
  • 売上未達でも一定期間は資金が持つ
  • 投資後の現預金安全ラインを維持できる

慎重に判断すべき会社

投資後の資金計画が曖昧

  • 設備導入そのものが目的になっている
  • 売上目標に具体的な根拠がない
  • 粗利や固定費を計算していない
  • 融資可能額を基準に投資額を決めている
  • 売上発生前の運転資金を見ていない
  • 失敗した場合の対策を用意していない

設備投資をしてよい会社とは、資金に余裕がある会社ではなく、 投資後の数字とリスクを事前に確認できている会社です。

09

銀行に説明すべき数字

設備資金の融資を相談する際、 見積書と決算書だけでは、投資の必要性や返済可能性を十分に説明できません。

1

投資目的

どの課題を解決し、何を改善する設備なのか

2

投資総額

設備、工事、付帯費用、運転資金を含む総額

3

収益計画

追加売上、追加粗利、固定費、利益の根拠

4

資金繰り

売上発生前後の現預金推移と必要運転資金

5

返済能力

返済原資、年間返済額、返済後キャッシュ

6

リスク対策

売上未達や稼働遅延が発生した場合の対応

銀行が確認したいのは、設備の性能だけではありません。 投資によって利益とキャッシュを生み出し、 無理なく返済できる計画になっているかを見ています。

SUMMARY

まとめ

設備投資は、売上増加や融資の可否だけでは判断できません。 投資後に増える粗利、固定費、借入返済、運転資金まで確認する必要があります。

01

設備投資によって解決する課題を明確にする

02

追加売上ではなく、追加粗利を確認する

03

減価償却費・人件費・保守費まで計算する

04

借入返済後もキャッシュが残るか確認する

05

売上未達時の資金繰りと対策を準備する

設備投資で大切なのは、投資を実行することではありません。 投資後も返済しながら資金を残し、次の成長につなげることです。

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